【第5回】 「危ないから撤去する」は、本当に正解ですか?(後編)

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【第5回】
「危ないから撤去する」は、本当に正解ですか?(後編)
〜ISO4980とBRA(ベネフィット・リスク評価)による実践〜
【第5回】
「危ないから撤去する」は、本当に正解ですか?(後編)
〜ISO4980とBRA(ベネフィット・リスク評価)による実践〜

この記事の筆者:大坪 龍太(プレイグラウンド・セーフティ・ネットワーク/IBRA 代表) この記事の筆者:大坪 龍太(プレイグラウンド・セーフティ・ネットワーク/IBRA 代表)

前編では、遊びの価値と結びついた「リスク」と、取り除くべき「ハザード」の違いについてお話ししました。後編となる今回は、この考え方を実際の現場でどう活かすか、国際規格ISO4980が示す「ベネフィット・リスク評価(BRA)」の実践的な進め方を中心にお伝えします。
ただし、リスクとハザードの境界は、いつも同じではありません。
前編では、遊びの価値と結びついた「リスク」と、取り除くべき「ハザード」の違いについてお話ししました。後編となる今回は、この考え方を実際の現場でどう活かすか、国際規格ISO4980が示す「ベネフィット・リスク評価(BRA)」の実践的な進め方を中心にお伝えします。
ただし、リスクとハザードの境界は、いつも同じではありません。

大切なのは、「誰が、どのような状況で遊ぶか」 大切なのは、「誰が、どのような状況で遊ぶか」

ある子どもにとって楽しい挑戦になる高さが、別の子どもにとっては、自分で判断することが難しい危険になる場合があります。
例えば、小学生向けの高い遊具を幼児が一人で利用すれば、幼児には必要な身体能力や危険を予測する力が十分に育っていないため、ハザードとなる可能性があります。また、普段は適切に利用できる遊具でも、
● 雨で表面が濡れている
● 周囲が混雑している
● 地面が大きくくぼんでいる
● 利用する子どもの年齢が想定より低い
● 見守る大人がいない
● 他の遊具との動線が交差している
といった条件によって、危険性は変化します。
国土交通省の指針も、リスクとハザードの境界は、社会の状況や子どもの発育発達段階によって異なり、一様ではないとしています。
したがって、「この高さなら安全」「この遊具は危険」と、遊具だけを見て単純に決めることはできません。遊具の状態、利用する子ども、周囲の環境、遊び方を一緒に見る必要があります。
ある子どもにとって楽しい挑戦になる高さが、別の子どもにとっては、自分で判断することが難しい危険になる場合があります。
例えば、小学生向けの高い遊具を幼児が一人で利用すれば、幼児には必要な身体能力や危険を予測する力が十分に育っていないため、ハザードとなる可能性があります。また、普段は適切に利用できる遊具でも、
● 雨で表面が濡れている
● 周囲が混雑している
● 地面が大きくくぼんでいる
● 利用する子どもの年齢が想定より低い
● 見守る大人がいない
● 他の遊具との動線が交差している
といった条件によって、危険性は変化します。
国土交通省の指針も、リスクとハザードの境界は、社会の状況や子どもの発育発達段階によって異なり、一様ではないとしています。
したがって、「この高さなら安全」「この遊具は危険」と、遊具だけを見て単純に決めることはできません。遊具の状態、利用する子ども、周囲の環境、遊び方を一緒に見る必要があります。

「小さなけが」と「重大事故につながるハザード」を混同しない 「小さなけが」と「重大事故につながるハザード」を混同しない

子どもが走れば、転ぶことがあります。高いところに登れば、足を滑らせる可能性もあります。こうした経験をすべてなくすことはできません。また、転ばないように先回りして大人が助け続ければ、子どもが自分で身体を使い、危険を予測する機会も少なくなります。
一方で、
● 首や頭が挟まる不適切な隙間
● 衣服のひもが引っかかる突起
● 地面の中で進行している支柱の腐食
● 外れかけた吊り金具
● むき出しになった基礎
● 劣化して切れかけたロープ
● 落下する場所にある鋭い構造物
などは、子どもが経験を通して学ぶための危険性ではありません。重大な事故につながる可能性があるため、早期に発見し、適切に対応する必要があります。安全管理で優先すべきなのは、「すべての転倒を防ぐ」ことではなく、子どもが予測できない重大なハザードを見つけ、取り除くことです。
子どもが走れば、転ぶことがあります。高いところに登れば、足を滑らせる可能性もあります。こうした経験をすべてなくすことはできません。また、転ばないように先回りして大人が助け続ければ、子どもが自分で身体を使い、危険を予測する機会も少なくなります。
一方で、
● 首や頭が挟まる不適切な隙間
● 衣服のひもが引っかかる突起
● 地面の中で進行している支柱の腐食
● 外れかけた吊り金具
● むき出しになった基礎
● 劣化して切れかけたロープ
● 落下する場所にある鋭い構造物
などは、子どもが経験を通して学ぶための危険性ではありません。重大な事故につながる可能性があるため、早期に発見し、適切に対応する必要があります。安全管理で優先すべきなのは、「すべての転倒を防ぐ」ことではなく、子どもが予測できない重大なハザードを見つけ、取り除くことです。

安全対策によって、新しいハザードをつくらない 安全対策によって、新しいハザードをつくらない

事故が起きた後、再発防止のために柵や覆いを付けることがあります。しかし、大人が「ここを塞げば安全になる」と考えて設置したものが、子どもにとっては新しい登り道やぶら下がる場所になることがあります。
国土交通省の指針でも、再発防止のための改修が別の事故を引き起こす可能性があるため、改修する箇所だけでなく、遊具全体の構造に配慮する必要があるとされています。安全対策は、何かを追加すれば終わりではありません。
対策を行う際には、
● 子どもが、その対策をどのように使う可能性があるか
● 新しい挟まりや引っかかりが生じないか
● 落下する場所や動線が変わらないか
● 遊具本来の遊びを不必要に失わせていないか
● 対策後も継続して点検できるか
まで考える必要があります。子どもは、大人が想定したとおりにだけ遊ぶとは限らないからです。
事故が起きた後、再発防止のために柵や覆いを付けることがあります。しかし、大人が「ここを塞げば安全になる」と考えて設置したものが、子どもにとっては新しい登り道やぶら下がる場所になることがあります。
国土交通省の指針でも、再発防止のための改修が別の事故を引き起こす可能性があるため、改修する箇所だけでなく、遊具全体の構造に配慮する必要があるとされています。安全対策は、何かを追加すれば終わりではありません。
対策を行う際には、
● 子どもが、その対策をどのように使う可能性があるか
● 新しい挟まりや引っかかりが生じないか
● 落下する場所や動線が変わらないか
● 遊具本来の遊びを不必要に失わせていないか
● 対策後も継続して点検できるか
まで考える必要があります。子どもは、大人が想定したとおりにだけ遊ぶとは限らないからです。

ISO 4980が示す「ベネフィット・リスク評価」 ISO 4980が示す「ベネフィット・リスク評価」

2023年に発行されたISO 4980は、スポーツ・レクリエーション施設、活動、設備などを対象とする「ベネフィット・リスク評価」の国際規格です。
ISOの公式説明では、スポーツやレクリエーション施設・設備について、ベネフィットとリスクを評価するための方法、指針、要求事項を示す規格とされています。(出典:ISO「ISO 4980:2023」)
ここで重要なのは、危険性だけを見るのではなく、その活動や環境によって得られるベネフィットも一緒に考えることです。遊具であれば、次のような価値が考えられます。
● 身体を動かし、筋力やバランス能力を育てる
● 高さや速さを自分で判断する
● 試行錯誤しながら遊び方を見つける
● 怖さを乗り越え、自信を得る
● 友達と協力したり、順番を調整したりする
● 子ども自身が遊びを選ぶ
● 障害の有無などにかかわらず、人と出会う
安全対策を検討するときには、「この遊具には、どのような危険があるか」だけでなく、「この遊具で、子どもは何を得ているのか」も確認します。そのうえで、遊びの価値をできるだけ残しながら、重大な危害につながる可能性を減らす方法を考えます。
2023年に発行されたISO 4980は、スポーツ・レクリエーション施設、活動、設備などを対象とする「ベネフィット・リスク評価」の国際規格です。
ISOの公式説明では、スポーツやレクリエーション施設・設備について、ベネフィットとリスクを評価するための方法、指針、要求事項を示す規格とされています。(出典:ISO「ISO 4980:2023」)
ここで重要なのは、危険性だけを見るのではなく、その活動や環境によって得られるベネフィットも一緒に考えることです。遊具であれば、次のような価値が考えられます。
● 身体を動かし、筋力やバランス能力を育てる
● 高さや速さを自分で判断する
● 試行錯誤しながら遊び方を見つける
● 怖さを乗り越え、自信を得る
● 友達と協力したり、順番を調整したりする
● 子ども自身が遊びを選ぶ
● 障害の有無などにかかわらず、人と出会う
安全対策を検討するときには、「この遊具には、どのような危険があるか」だけでなく、「この遊具で、子どもは何を得ているのか」も確認します。そのうえで、遊びの価値をできるだけ残しながら、重大な危害につながる可能性を減らす方法を考えます。

あそび場の関係者が集まってBRAを実施する様子(イメージ生成画像) あそび場の関係者が集まってBRAを実施する様子(イメージ生成画像)

BRAでは、どのように考えるのでしょうか BRAでは、どのように考えるのでしょうか

ベネフィット・リスク評価(BRA)の考え方を、遊具に当てはめると、次のような流れになります。
1.遊びの価値を確認する
その遊具で、子どもは何を楽しみ、何を経験しているのかを確認します。高さへの挑戦、揺れや速さ、全身運動、友達との協力など、遊具が生み出しているベネフィットを整理します。
2.危険性を具体的にする
「何となく危ない」ではなく、誰に、どこで、何が起きる可能性があり、どの程度の危害につながるのかを具体的に考えます。
3.子どもが気づき、対応できるかを考える
危険性が見えているか。子どもが理解できるか。挑戦するかどうかを選べるか。途中でやめたり、戻ったりできるか。これらは、リスクとハザードを考える重要な視点です。
4.必要な対策を検討する
対策は、撤去だけではありません。
● 傷んだ部分を修繕する
● 消耗部品を交換する
● 設置面を改善する
● 遊具周辺の動線を変える
● 利用する年齢を分かりやすく示す
● 見守りや利用方法を工夫する
● 遊具の一部だけを使用中止にする
● より適した遊具へ更新する
など、複数の選択肢を比べます。
5.対策後の遊びの価値を確認する
安全対策によって、ハザードは減ったか。同時に、子どもが挑戦したり、遊び方を選んだりする価値まで失われていないかを確認します。対策を行って終わりではなく、実際の遊ばれ方を観察し、必要に応じて見直すことも大切です。
ベネフィット・リスク評価(BRA)の考え方を、遊具に当てはめると、次のような流れになります。
1.遊びの価値を確認する
その遊具で、子どもは何を楽しみ、何を経験しているのかを確認します。高さへの挑戦、揺れや速さ、全身運動、友達との協力など、遊具が生み出しているベネフィットを整理します。
2.危険性を具体的にする
「何となく危ない」ではなく、誰に、どこで、何が起きる可能性があり、どの程度の危害につながるのかを具体的に考えます。
3.子どもが気づき、対応できるかを考える
危険性が見えているか。子どもが理解できるか。挑戦するかどうかを選べるか。途中でやめたり、戻ったりできるか。これらは、リスクとハザードを考える重要な視点です。
4.必要な対策を検討する
対策は、撤去だけではありません。
● 傷んだ部分を修繕する
● 消耗部品を交換する
● 設置面を改善する
● 遊具周辺の動線を変える
● 利用する年齢を分かりやすく示す
● 見守りや利用方法を工夫する
● 遊具の一部だけを使用中止にする
● より適した遊具へ更新する
など、複数の選択肢を比べます。
5.対策後の遊びの価値を確認する
安全対策によって、ハザードは減ったか。同時に、子どもが挑戦したり、遊び方を選んだりする価値まで失われていないかを確認します。対策を行って終わりではなく、実際の遊ばれ方を観察し、必要に応じて見直すことも大切です。

「撤去しないこと」が目的ではありません 「撤去しないこと」が目的ではありません

ここまで読むと、「どのような遊具も、遊びの価値があれば残すべきだ」と受け取られるかもしれません。
しかし、それも違います。構造全体の劣化が進んでいる、重大なハザードを適切に除去できない、修繕しても必要な安全性を確保できないといった場合には、使用中止や撤去、更新が必要です。
大切なのは、撤去を避けることではなく、撤去だけを最初の答えにしないことです。
● 修繕できないか
● 部品交換で対応できないか
● 配置や設置面を改善できないか
● 利用方法を工夫できないか
● 同じ遊びの価値を持つ別の遊具へ更新できないか
を検討したうえで判断します。
撤去が必要な場合でも、その遊具で子どもが何を楽しんでいたのかを確認しておけば、次の遊具や遊び場づくりに、その価値を引き継ぐことができます。
ここまで読むと、「どのような遊具も、遊びの価値があれば残すべきだ」と受け取られるかもしれません。
しかし、それも違います。構造全体の劣化が進んでいる、重大なハザードを適切に除去できない、修繕しても必要な安全性を確保できないといった場合には、使用中止や撤去、更新が必要です。
大切なのは、撤去を避けることではなく、撤去だけを最初の答えにしないことです。
● 修繕できないか
● 部品交換で対応できないか
● 配置や設置面を改善できないか
● 利用方法を工夫できないか
● 同じ遊びの価値を持つ別の遊具へ更新できないか
を検討したうえで判断します。
撤去が必要な場合でも、その遊具で子どもが何を楽しんでいたのかを確認しておけば、次の遊具や遊び場づくりに、その価値を引き継ぐことができます。

BRAによって遊具撤去ではなくクライマーの部分補修を実施(イメージ生成画像) BRAによって遊具撤去ではなくクライマーの部分補修を実施(イメージ生成画像)

安全とは、子どもを何もさせないことではありません 安全とは、子どもを何もさせないことではありません

子どもは、できなかったことに挑戦し、少しずつ自分の力を広げていきます。
初めて一人ですべり台に登る。昨日より高くブランコをこぐ。揺れる橋を、手すりにつかまりながら渡る。友達の遊び方を見て、自分も試してみる。
こうした経験の中で、子どもは身体の使い方だけでなく、「ここまでならできる」「今日はやめておこう」「もう一度やってみよう」と、自分で判断する力を育てます。
安全な遊び場とは、危険性が一切存在しない場所ではありません。子どもには分からない重大なハザードが適切に取り除かれ、そのうえで、子どもが自分の力に応じた挑戦を選べる場所です。
「危ないから撤去する」と決める前に、「これは、子どもの成長につながる挑戦なのか」「それとも、遊びの価値とは関係のないハザードなのか」「価値を残しながら、安全性を高める方法はないか」と考えてみる。そこから、遊びの価値を守る安全管理が始まります。
子どもは、できなかったことに挑戦し、少しずつ自分の力を広げていきます。
初めて一人ですべり台に登る。昨日より高くブランコをこぐ。揺れる橋を、手すりにつかまりながら渡る。友達の遊び方を見て、自分も試してみる。
こうした経験の中で、子どもは身体の使い方だけでなく、「ここまでならできる」「今日はやめておこう」「もう一度やってみよう」と、自分で判断する力を育てます。
安全な遊び場とは、危険性が一切存在しない場所ではありません。子どもには分からない重大なハザードが適切に取り除かれ、そのうえで、子どもが自分の力に応じた挑戦を選べる場所です。
「危ないから撤去する」と決める前に、「これは、子どもの成長につながる挑戦なのか」「それとも、遊びの価値とは関係のないハザードなのか」「価値を残しながら、安全性を高める方法はないか」と考えてみる。そこから、遊びの価値を守る安全管理が始まります。

次回予告
次回予告

次回は、商業施設やレジャー施設の遊び場を取り上げます。安全対策を、事故やクレームを防ぐためだけの「コスト」と考えるのではなく、子どもと家族に選ばれる施設をつくる「価値ある投資」として捉える方法を考えます。
次回は、商業施設やレジャー施設の遊び場を取り上げます。安全対策を、事故やクレームを防ぐためだけの「コスト」と考えるのではなく、子どもと家族に選ばれる施設をつくる「価値ある投資」として捉える方法を考えます。

PROFILE

この記事の筆者:大坪 龍太 この記事の筆者:大坪 龍太

(プレイグラウンド・セーフティ・ネットワーク/IBRA 代表) (プレイグラウンド・セーフティ・ネットワーク/IBRA 代表)

子どもの成長・発達に必要な「リスク」と、除去すべき「ハザード」を、ベネフィット・リスクアセスメント(BRA)で切り分けて考える、パーク・マネジメントの専門家。国土交通省の安全指針やISO4980;2023(BRA)の策定委員の経験を基に、全国の自治体や施設管理者へ向けたBRAに関する普及啓発活動を行う。 子どもの成長・発達に必要な「リスク」と、除去すべき「ハザード」を、ベネフィット・リスクアセスメント(BRA)で切り分けて考える、パーク・マネジメントの専門家。国土交通省の安全指針やISO4980;2023(BRA)の策定委員の経験を基に、全国の自治体や施設管理者へ向けたBRAに関する普及啓発活動を行う。

INFORMATION

【専門相談窓口のご案内】 【専門相談窓口のご案内】

あそび場の安全管理を支える あそび場の安全管理を支える】

「行政から危険性を指摘されたが、撤去する前に他の解決策がないか模索したい」「修繕することで、遊びとしての魅力と、確かな安全性を両立させたい」――そんなときは、ぜひ一度当窓口へご相談ください。
本サイトの専門相談窓口(運営:KTS)では、遊具の状態や利用される子どもたちの状況を総合的に確認した上で、ただ撤去するのではなく、継続使用・部分修繕・新しい価値を持つ遊具への更新など、あそび場の価値を最大化するアプローチを一緒に考えます。いつでもお気軽にご相談ください。
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